DSP基礎完全ガイド-初心者のためのデマンドサイドプラットフォーム解説-
現代のマーケティング環境において、消費者の行動は劇的に変化しています。従来の広告手法だけでは消費者にリーチすることが困難になっています。消費者の60%がインターネットメディアに接触する時間が増加しており、デジタル広告の重要性は日々高まっています。
特に店舗ビジネスにおいては、近隣住民への情報提供手段として、新聞折込広告以外のコミュニケーション手段が必要不可欠となっています。このような背景から、効率的かつ効果的にデジタル広告を配信できるDSP(デマンドサイドプラットフォーム)の理解と活用が、現代のマーケティング担当者にとって重要なスキルとなっているのです。
DSPを解説したポッドキャスト版Biz Trend Expressもお聴き下さい。
- DSPとは何か?基本概念の理解
- デジタル広告の歴史とDSPの誕生
- DSPの仕組み:リアルタイム入札(RTB)を理解する
- ターゲティング手法の種類と活用
- 実際の配信事例
- DSP活用のメリットと注意すべきポイント
- まとめ|DSPの理解と活用が店舗集客の新常識に
DSPとは何か?基本概念の理解
DSPの定義
DSP(Demand Side Platform:デマンドサイドプラットフォーム)とは、広告主が最適な広告枠に最適な金額で配信するためのプラットフォームです。複数のネットワークをまたいで、ターゲティングとリアルタイム自動入札を行うことができます。
需要と供給の関係
DSPの理解には、需要と供給の概念が重要です。
デマンド(需要):広告を出したいと思っている広告主側
サプライ(供給):広告枠を提供できる媒体側
DSPは需要側のプラットフォームとして、広告主の「効率的に広告を出したい」というニーズに応えます。対となるのがSSP(Supply Side Platform:サプライサイドプラットフォーム)で、これは媒体側が収益を最大化するために、広告枠を管理・販売するプラットフォームです。
従来の広告手法との違い
従来の純広告では、事前に決まった価格で特定の期間、特定の場所に広告を掲載していました。しかしDSPを使った広告配信では、
- リアルタイムで広告枠をオークション購入
- ユーザーの属性や行動に基づいた精密なターゲティング
- 効果に応じた予算配分の最適化
- 0.1秒以下での瞬時の取引判断
デジタル広告の歴史とDSPの誕生
デジタル広告の進化プロセス
DSPを理解するためには、デジタル広告がどのように発展してきたかを知ることが重要です。以下の年表で主要な変遷を見てみましょう。
年代 | 広告手法 | 特徴 |
1996年頃~ | バナー広告(純広告) | Webサイトの特定広告枠を買い取り、一定期間掲載。費用は事前に固定 |
2002年頃~ | リスティング広告 | 検索連動型。少額出稿可能、クリック課金、オークション制単価 |
2006年頃~ | 行動ターゲティング | ユーザーの検索履歴や閲覧履歴に基づく配信。条件合致ユーザーのみに配信 |
2008年頃~ | アドネットワーク | 複数Webサイトを束ねたネットワーク配信。手間削減とリーチ拡大 |
2010年頃~ | アドエクスチェンジ | 広告枠のインプレッション単位でのリアルタイム売買市場化 |
2011年頃~ | DSP/SSP | 需要側・供給側それぞれの最適化プラットフォーム登場 |
DSP誕生の背景
DSPが誕生した背景には、以下のような市場ニーズがありました。
- 広告主のニーズ:より効率的に、より適切なユーザーに広告を配信したい
- 媒体側のニーズ:売れ残った広告枠を有効活用して収益を最大化したい
- 技術の進歩:リアルタイムでの大量データ処理が可能になった
- 市場の複雑化:多数の媒体・ネットワークを効率的に管理する必要性
特に興味深いのは、リーマンショック後に金融業界から広告業界に流れた優秀な人材が、こうした高度なオークションシステムの開発に貢献したという背景もあります。
DSPの仕組み:リアルタイム入札(RTB)を理解する
RTB(リアルタイムビディング)とは
RTB(Real Time Bidding:リアルタイム入札)は、ユーザーがWebページを閲覧する瞬間に、その広告枠に対してリアルタイムでオークションを行う仕組みです。この一連の取引は、わずか0.1秒以下で完了します。
RTBの流れ:8つのステップ
RTBがどのように動作するか、具体的な8つのステップで説明します。
RTBの詳細フロー
入札判断に使われるデータ
DSPが入札するかどうかを判断する際に使用されるデータには、以下のようなものがあります。
- 基本情報:IPアドレス、クッキーデータ、ブラウザ情報
- 行動データ:過去の検索履歴、閲覧履歴、クリック履歴
- 属性データ:推定年齢、性別、職業、年収等
- 位置情報:現在地、過去の位置履歴、居住エリア推定
- 外部データ:DMP(データマネジメントプラットフォーム)から提供される専門データ
DSP、SSP、アドエクスチェンジの関係
これらのプラットフォームは以下のような関係にあります。
- アドエクスチェンジ:広告枠をインプレッション単位でリアルタイム売買するマーケット
- DSP:広告主側のプラットフォーム(需要側)
- SSP:媒体側のプラットフォーム(供給側)
DSPとSSPがアドエクスチェンジを通じて接続し、需要と供給のマッチングが行われます。この仕組みにより、広告主は効率的に目的のユーザーにリーチでき、媒体は収益を最大化できるのです。
ターゲティング手法の種類と活用
基本的なターゲティング手法
DSPでは様々なターゲティング手法を組み合わせることができます。
- デモグラフィックターゲティング:年齢、性別、職業等の属性による絞り込み
- 行動ターゲティング:過去のサイト閲覧履歴や検索履歴に基づく配信
- インタレストターゲティング:興味関心カテゴリーによる配信
- リターゲティング:自社サイト訪問者への追跡配信
- 類似ユーザーターゲティング:既存顧客に似たユーザーへの配信
ジオターゲティング(位置情報ターゲティング)
特に店舗ビジネスで重要なのが位置情報を活用したジオターゲティングです。DSPでは主に3つの位置情報ターゲティングが可能です。
位置情報ターゲティングの3タイプ
1. リアルタイム配信
概要:今そこにいる人に配信
例:店舗から半径1km圏内にいるユーザーにクーポン配信
特徴:即時性があり、タイムリーな訴求が可能
2. ヒストリカル配信
概要:過去そこにいた人に配信
例:競合店舗を訪れたことがあるユーザーに自店の広告配信
特徴:行動履歴に基づいた興味関心の高いユーザーへの配信
3. 居住者配信
概要:そこに住んでいる人に配信
例:特定エリアの居住者に地域密着型サービスの広告配信
特徴:継続的な利用が期待できるエリアターゲティング
配信エリアの指定方法
DSPでは柔軟な配信エリア設定が可能です:
- 住所指定:特定の住所を中心とした半径指定(半径50mから指定可能)
- エリア指定:都道府県、市区町村、郵便番号単位での指定
- リスト指定:施設名や業種などのカテゴリ指定(カーディーラー、学習塾、ドラッグストアなど)
位置情報ターゲティングの実践活用

実際のDSPサービスの例として、DSPの機能を見てみると、
例えば、位置情報×ディスプレイ広告に特化したDSPで、以下のような特徴があります。
- スマートフォンのGPSデータに基づく精密なターゲティング
- 来店計測機能による効果の可視化
- DSP基盤の活用による幅広い配信ネットワーク
- 最大15ヶ月遡った位置情報履歴の活用
位置情報DSPは特に以下のような広告主におすすめです。
- 店舗集客数にお悩みの広告主
- 来店CV(コンバージョン)計測が可能な広告を希望の広告主
- 既存媒体以外に新たな集客手法を求めている広告主
- Google、Yahoo!、Facebook等をやりきっている広告主
実際の配信では以下のような設定が可能です:
- 配信範囲:店舗周辺(例:半径2km)、競合店舗、大企業勤務者エリア
- 業態指定:ジム、学習塾、ドラッグストア、スーパー、家電量販店、コンビニ、百貨店など
- 配信規模:1キャンペーンあたり1000地点、最大15ヶ月遡り指定可能
- 配信先:スマートフォンアプリ面のみ(PC配信不可)
目的別に選ぶ!最新DSPの特徴と選定ポイント徹底解説
(※)8月19日公開予定
効果測定と来店計測
来店計測の仕組み
位置情報DSPの最大の特徴は、広告配信した人が実際に店舗に訪れたかをGPSで計測できることです。これにより、デジタル広告の効果をオフラインの行動と結びつけて測定できます。
広告リフト効果の測定
効果測定では以下のような比較分析が可能です。
広告リフト効果の測定例
- 広告接触者の来店率:0.05%
- 広告非接触者の来店率:0.038%
- 結果:広告接触者は来店率が約2倍高く、広告の寄与度が高いことが証明
DSPでは以下のような多角的な分析レポートが提供されます。
- 店舗別効果検証:複数店舗での効果の比較
- ターゲティング別分析:どのターゲティング設定が効果的かの分析
- 時系列分析:日別、週別の効果推移
- 基本指標:表示回数、クリック数、クリック率、クリック単価、獲得数、CPM
実際の配信事例
・テーマパーク
配信概要
目的:近隣学生への認知向上と来館促進
ターゲティング:県内特定エリア内の高校・大学38校で位置情報が検知されたユーザー
手法:学校での位置情報検出履歴を活用したヒストリカル配信
結果:効率的な学生層へのリーチを実現
・外食店
配信概要
目的:店舗周辺での認知向上と来店促進
ターゲティング:店舗から1km圏内の学校284校で位置情報が検知されたユーザー
成果:広告接触者と非接触者の来店率比較により、広告効果を定量的に証明
特徴:来店計測により、デジタル広告のオフライン効果を可視化
・その他の活用事例
DSPは様々な業種・目的で活用されています。
- スポーツジム新規出店:認知目的、来店単価1,000円、CPC目標100円→実績80円
- 生活雑貨セール:来店単価450円、CPC実績40円
- 中古車販売:来店単価3,150円、CPC実績195円
DSP活用のメリットと注意すべきポイント
DSP活用のメリット
- 効率性:複数媒体への一括配信で手間を大幅削減
- 精密性:高度なターゲティングによる無駄のない配信
- 透明性:リアルタイムでの効果測定と最適化
- スケーラビリティ:予算に応じた柔軟な配信規模調整
- データ活用:豊富な外部データとの連携による精度向上
注意すべきポイント
- ブランドセーフティ:不適切なサイトへの配信リスク
- プレースメント管理:配信面の品質管理の重要性
- データの質:使用するデータの精度と信頼性
- 設定の複雑さ:適切な設定には専門知識が必要
- コスト管理:効率的でない設定による予算の無駄使い
DSP選択時のポイント
DSPを選択する際は以下の点を考慮しましょう。
- 配信ネットワークの範囲:ターゲットユーザーにリーチできるか
- ターゲティング機能:必要なターゲティング手法が使用可能か
- データ連携:活用したい外部データとの連携は可能か
- 効果測定:求める指標での効果測定ができるか
- サポート体制:運用サポートの充実度
- 費用対効果:手数料と期待できる効果のバランス
まとめ|DSPの理解と活用が店舗集客の新常識に
本記事では、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)の基礎から、位置情報を活用したターゲティング、来店計測を含む効果測定、そして具体的な活用事例まで、幅広く解説しました。
従来の純広告や単一媒体への出稿では到達が難しくなったターゲット層にも、DSPを活用することで「誰に・どこで・いつ」アプローチするかを緻密に設計できる時代です。特にリアル店舗ビジネスでは、位置情報を活用した広告配信と来店計測を組み合わせることで、オンライン施策とオフライン効果を結びつけた販促戦略の最適化が可能となります。
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