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大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎に学ぶ、「写楽プロジェクト」に見るIP戦略と、変動期を生き抜くマーケティング思考

作成者: 大住 浩章|2025/12/03 0:00:00

NHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』は、第45話・46話で物語がいよいよ最終盤に突入します。
蔦屋重三郎は仇討ち計画・政治の陰謀・出版ビジネス・新たなIP創出(写楽)と、複数の利害が交錯する極めて複雑な状況に置かれます。

しかし、この混乱の中でも蔦重は、
「市場を見る」だけでなく、「人の心の奥に潜む熱量を発見し、形にする」
という編集者・プロデューサーとしての洞察を発揮します。

第45話では、風紀粛清によって抑圧された“芝居人気の潜在需要”を読み取り、写楽プロジェクトを構想。
第46話では、曽我祭という巨大イベントの熱量を活かし、IPローンチのタイミングを設計します。

それはまさに、現代企業が向き合う
ファンコミュニティ、IP戦略、イベントドリブンマーケティング、リスクマネジメント
と同じ構造です。

以下、2話をこれまでと同じフォーマットで紐解いていきます。

 

参考・引用:大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK
https://www.nhk.jp/p/berabou/ts/42QY57MX24/
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特別編 引札とは?江戸時代の広告戦略と現代マーケティングへの応用

目次 閉じる

1.第45話「その名は写楽」



あらすじ

仇討ち・規制社会・抑圧された庶民文化の中で“IPプロジェクト”が動き出す

松平定信は蔦重に、
一橋治済ら「悪党」を討つ仇討ち計画
への参加を迫る。しかし、源内・恋川春町らの死を知る蔦重にとって、権力闘争への加担はあまりに重い決断だ。
一歩誤れば、自身のみならず妻・おていまでも危険に晒される──蔦重の葛藤が濃厚に描かれる。

一方で江戸では、芝居町が総力を挙げる
「曽我祭」
という一大イベントの準備が進行。
ここで蔦重は、役者たちの素顔を捉えた新しい役者絵の企画を思いつく。
それが後に世を震わせる 「写楽」プロジェクト の誕生となる。

歌麿は別の本屋への不満を抱え、創作への苛立ちを募らせていたが、おていの働きかけにより、再び筆を取る決意を固める。
写楽誕生への地ならしが着実に進む回となっている。

 

現代に通じるポイント(第45話)

1.抑圧された需要を“見える化”する──ファンのインサイト発掘

● 江戸時代の課題と対応策

倹約令や風紀粛清によって、歌舞伎三座はすっかり肩身が狭くなり、「芝居はダメ」という空気が広がっていました。しかし、それはあくまで表向きのルールであって、町人たちの心の中から「役者が好き」「芝居を見たい」という情熱が消えたわけではありません。

蔦重はここで、「表のルール」と「心の中の本音」のギャップす。

  • 表向きは“自粛ムード”

  • でも、役者の姿を見たい/話題にしたいという“推しカルチャー”は生きている

このギャップを埋める手段として、蔦重は、役者絵(写楽)というコンテンツで“見えない熱量”を可視化し、商品化するという戦略を取ります。

● 現代の課題と対応策

現代でも、

  • 広告規制の厳しい業界(医療・金融・一部嗜好品など)

  • 直接的なプロモーションがやりにくいテーマ

では、“正面からの広告”が打ちにくいケースが多くあります。

そんなときに有効なのが、

  • ファンコミュニティ

  • グッズ・二次創作的コンテンツ

  • 体験イベント・オンライン配信

などを通じて、ファンの熱量を別の形で可視化・マネタイズする発想です。

● 江戸時代と現代の比較

  • 江戸:役者を直接推せない → 役者絵で「推し」を形にする

  • 現代:直接広告しづらい → コミュニティやコンテンツで「好き」を形にする

どちらも、

“抑圧された需要をどう可視化するか”がビジネスの起点になる
という点で共通しています。

 

2.「写楽=IPプロジェクト」という現代型ブランド戦略

● 江戸時代の課題と対応策

写楽を「個人の天才」ではなく、
匿名プロジェクト(IP名)として立ち上げる
という描写は非常に現代的だ。

価値を生むのは
“誰が描いたか”より“写楽というラベル・世界観”。
IPは解散してもブランドだけが伝説化する。

● 現代への示唆

VTuber、スタジオIP、プロジェクト名で展開するゲーム・アニメ──
“個人”ではなく“IPそのもの”をブランドにする戦略と一致する。

● 江戸と現代の比較

個人依存ではなく、IPの世界観で勝負する時代。
蔦重は250年前にこれを実装していた。

3.ステークホルダーを巻き込みつつ、逆境を資金源に変える

● 江戸時代の課題と対応策

蔦重は定信に対し、
「あなたが進めた倹約で芝居が干上がっている」と、
規制の副作用を逆手に取って出資を引き出す。

政治・庶民文化・出版ビジネスが交差する中で、
権力者の“負い目”と“体面”を利用した高度な交渉術が描かれる。

● 現代への示唆

ステークホルダーの利害・不安・体面を読み取り、
「相手に断れない正義」を提示するのは、
現代の資金調達や社外アライアンス戦略でも通用する。

● 江戸と現代の比較

逆境を資源に変え、敵をスポンサーにする。
蔦重の“プロデューサー力”は現代でも極めて有効。

 

2.第46話「曽我祭の変」

 

あらすじ

大規模イベント×政治陰謀×IPローンチが交差する“複雑系マーケティング”

曽我祭は、仇討ちを題材にした江戸最大級の行事。
膨大な人流・熱狂・物語性が一気に噴き上がる日である。

蔦重はこのタイミングに写楽をぶつけ、
「熱狂が最大化する瞬間にIPをローンチする」
というイベントドリブン型の戦略をとる。

一方、定信側はこの祭を利用して一橋治済を誘い出し、裏で仇討ち計画を進める。
出版・庶民文化・政治が複雑に絡み、蔦重は知らぬ間に政治の罠に組み込まれていく。

「写楽とは何者か」という謎が江戸全体の話題をさらい、47話以降の最終決戦(毒まんじゅう事件など)へと加速していく。

 

現代に通じるポイント
 

1.曽我祭×写楽──イベントドリブン・ローンチ戦略

● 江戸時代の課題と対応策

曽我祭は、

  • 人が密集する

  • 曽我兄弟の仇討ちという強い物語がある

  • 江戸中の関心が一点に集まる

という、**年間でも屈指の“注目が集中する日”**として描かれます。

蔦重はここに狙いを定め、

「曽我祭という“場の熱量”を、写楽ローンチのブースターにする」

という戦略を選びます。

つまり、
トラフィック(人流)×物語性×ニュース性
が揃うタイミングに合わせて、IPを一気に世に出す設計です。

● 現代の課題と対応策

現代のマーケティングでも、

  • W杯決勝

  • オリンピック開会式

  • 大型音楽フェス

  • ブラックフライデー

など、「世の中の視線が一点に集まる日」に合わせて、
キャンペーン・新商品・コラボ企画をぶつける手法が一般的です。

自前のトラフィックをゼロから集めるのではなく、
既にある“巨大な注目の流れ”に便乗して、一気に認知を取る発想です。

● 江戸時代と現代の比較

  • 江戸:曽我祭に写楽をぶつける

  • 現代:ビッグイベントに合わせてブランドを投下する

どちらも、

「人が集まるタイミングにメッセージを重ねる」=イベントドリブンマーケティング
という構造はまったく同じです。

 

2.権力とのアライアンスがもたらす、“意図しない政治化”リスク

● 江戸時代の課題と対応策

第46話では、

  • 曽我祭

  • 写楽プロジェクト

  • 一橋治済を巡る政治的陰謀
    が同じ場所・タイミングで交錯します。

蔦重は「庶民の祭とIPのローンチ」を目的に動いている一方で、
権力側は「仇討ちの罠」として同じ場を使おうとしている。

その結果、
写楽というブランドが、意図せず政治事件の文脈と結びついてしまう危険が生まれます。

● 現代の課題と対応策

現代でも、

  • 社会的な抗議運動

  • 政治的メッセージ

  • コーズマーケティング

に企業ブランドが絡むと、

「この企業はどちら側なのか?」
といった形で、意図しない政治的意味づけをされることがあります。

そのため、

  • どの団体・人物と組むのか

  • どんな場でブランドを露出させるか

  • その場にどんな“別の意図”が混ざっているか

を慎重に見極める必要があります。

● 江戸時代と現代の比較

  • 江戸:写楽が仇討ち計画の舞台と重なり、政治事件とセットで語られるリスク

  • 現代:ブランドがデモ・炎上・政治的議論と紐づいてしまうリスク

どちらも、

ブランドは、“どこで・誰と・何と並んで扱われるか”で意味づけが変わる
という教訓を示しています。

3.“写楽=プロジェクト”というIP戦略のローンチと、その光と影

● 江戸時代の課題と対応策

第46話では、写楽は
「匿名のプロジェクト名」で一気に世に出るIP
として描かれます。

  • 誰が描いているのか分からない

  • だからこそ、みんなが噂し、勝手に物語を膨らませる

  • 個人よりも「写楽」という名そのものが“事件”になる

この構造により、

「責任とリスクは個人に集中させず、熱狂と話題だけをIPに集める」
という巧妙な仕組みが出来上がっています。

● 現代の課題と対応策

現代IPビジネスでも、

  • 制作委員会方式で複数社が関わる

  • 作品は“スタジオ名”や“ブランド名”で出す

  • 個々のクリエイターより、IP全体の価値を育てる

といった手法が一般的です。

これは、

  • 個人の不祥事リスクを分散

  • IPとして売買・展開しやすくする

  • 長期的に世界観を育てる

といった利点があります。

● 江戸時代と現代の比較

  • 江戸:写楽という“名前”が時代を揺らす

  • 現代:IP名・シリーズ名・ブランド名が市場を動かす

どちらも、

「名前そのものを事件にする」=IPローンチの本質
を見事に体現していると言えます。


 

3.第45話・46話から読み解く現代企業の戦略的示唆

 
 

終盤へ向けて加速する「価値創造と市場設計」の物語

第45話・第46話は、『べらぼう』全48話のなかでも、
「蔦屋重三郎のビジネスセンスとプロデューサー視点」が最も立体的に立ち上がるパートと言えます。

ここで描かれているのは、ただの新企画立ち上げやお祭り騒ぎではありません。
より正確には、

  • 抑圧された需要をどう発見し、

  • どのようなIPとしてパッケージし、

  • どのタイミング・どの場で世に放つのか

という、価値創造と市場設計のプロセスそのものです。

1.「どこに熱量が眠っているか」を見抜く力

倹約令や風紀粛清で表面的にはしぼんで見える芝居文化の裏で、
人々は依然として役者や舞台に熱い視線を送り続けています。

蔦重は、この 「見えない熱量」=抑圧されたファン需要 を捉え、
役者絵や写楽というコンテンツに変換することで、市場として“見える形”にしました。

これは現代企業でいえば、
データや表向きの数字だけでなく、

  • SNSの声

  • コミュニティの雰囲気

  • 規制の裏で揺れる本音

といった“行間”から、ビジネスの種を見つける行為に相当します。

2.「個人」ではなく「プロジェクト」で価値を束ねる設計

写楽を一人の天才ではなく、
プロジェクト名/IP名として打ち出す設計は、
価値の源泉を「特定の個人」ではなく「世界観・レーベル・ラベル」に移す試みです。

これにより、

  • 誰が描いているかという正体は“物語の燃料”になり

  • 具体的な作り手よりも、「写楽」という名前そのものが事件化し

  • 後世に残るのも“人名”より“IP名”になる

という構造が生まれます。

現代的に言えば、
クリエイターを抱えこんで終わるのではなく、IPとして残る“器”を設計する発想であり、
持続するブランドをつくるうえで欠かせない視点です。

3.「いつ・どこで・誰と組んで出すか」を設計するマーケティング思考

寫楽のローンチを、曽我祭という

  • 人流が最大化し

  • 物語が集約され

  • 権力者まで街に引きずり出される

特別な一日にぶつけたのは、まさに
イベントドリブンな市場設計です。

同時に、その裏で政治的陰謀や仇討ち計画が進んでしまったことで、
ブランドが意図せず“政治の文脈”に巻き込まれるリスクも浮き彫りになります。

ここには、

  • 最大のインパクトを狙うローンチ設計

  • ブランドの意味づけを誤らないためのリスクマネジメント

という、現代のマーケティング・広報でも避けて通れないテーマが凝縮されています。

第45話・第46話は、
「価値をどこから見つけ出し、どんな器に入れ、どの瞬間に市場へ届けるか」
という、ビジネスとマーケティングの根幹プロセスを、江戸の出版と祭を舞台に描いた回だと言えます。

ここから先、物語は最終局面へと一気に加速していきますが、
蔦屋重三郎が写楽というIPとともに、
どこまで市場と時代を揺らしていくのか──
その“設計図”が見え始めるのが、この45話・46話なのです。

 

おわりに:最終盤へ──写楽が揺らす江戸、そして“価値の本質”

第45話・46話は、全48話の物語が最終盤へ向けて動き出す、まさに“地平が変わる”回でした。
ここで描かれる蔦屋重三郎は、危険を孕んだ政治闘争の渦中にありながら、
それでも 「人の心の熱量を形にし、価値へ変換する」 という本質を決して手放しません。

写楽というIPを立ち上げ、
抑圧された庶民文化の熱を掬い上げ、
時代を巻き込む仕掛けを設計する──
その姿は、プロデューサー・編集者・マーケターとしての蔦重の真価を示しています。

この2話が与える示唆は、現代の企業やマーケターにとっても極めて重要です。

  • 物語が強い時代ほど、人の感情が価値を動かす

  • IPという器をつくることで、才能や作品を長く生かせる

  • 巨大イベントの“熱量”をどう活用するかで、市場の反応は激変する

  • ブランドは、意図せぬ文脈と結びつく危険性を常に抱えている

  • そして何より、抑え込まれた需要の中にこそ、新市場の種が眠っている

データだけでは見えない“文化的熱量”を読み解き、
社会の空気の揺れを掴み取り、新しい価値の形を編む──
これは、蔦重が江戸の混乱期に成し遂げたことであり、
同時に、今を生きる私たちが向き合うべきマーケティングの核心でもあります。

写楽が江戸の街へと放たれ、
曽我祭の熱狂が渦を巻き、
政治と庶民文化の境界が曖昧になっていく──
物語はここから、いよいよクライマックスへと向かいます。

残る数話で、蔦屋重三郎は何を守り、何を捨て、どんな“価値”を未来へ残すのか。
その答えは、江戸の街を揺らし続ける写楽とともに語られることでしょう。

最終盤の展開を見届けながら、
私たち自身もまた、変化の時代にどんな物語を編んでいくのかを問われているのかもしれません。

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