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大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎に学ぶ、逆境を機会に変えるブランド再定義と市場創造

2025年放送のNHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』第39話・第40話では、幕府による出版統制が最高潮に達し、蔦屋重三郎が財産半減の刑に処されるという大きな転換点が描かれます。
それは「文化の崩壊」を目前にしながらも、蔦重が再び創造の火を灯す物語。これらの物語は、規制や弾圧という「外的要因」に直面した際に、いかにブランドを守り、組織を再構築し、新たな市場を切り開くかという現代マーケティングにも通じる重要な示唆を与えてくれます。

 

参考・引用:大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」 - NHK

tsutajyu21 (1)

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1.第39話「白河の清きに住みかね身上半減」


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あらすじ

幕府の出版統制が強まる中、蔦屋重三郎は出版仲間を束ねて「地本問屋仲間」を立ち上げます。目的は、検閲に屈せず文化を守ること。
蔦重は山東京伝の艶本三部作を「教訓読本」として出版し、表面上は道徳書、実際は風刺本という二重構造で読者を魅了しました。

しかしこの巧妙な手法はやがて幕府の目に留まり、地本問屋仲間は摘発されます。老中・松平定信によって三作品は絶版、蔦重と京伝は捕縛され、重三郎には「身上半減(財産半減)」の刑が下されました。
一方、歌麿は最愛のきよを失い、蔦屋も文化と事業の両面で追い詰められます。それでも彼の中には「文化を絶やさない」という信念が静かに燃えていました。

 

 


現代に通じるポイント
 
1. 出版統制下でのブランド再定義

江戸時代の課題と対応策

寛政の改革による出版統制は、出版業者にとって最大の危機でした。風刺や艶本は「風紀を乱す」として取り締まりの対象となり、蔦重のような革新的な出版人ほど弾圧を受けやすい立場にありました。
しかし蔦重は、表現の核を守りながらも「見せ方」を変えるという柔軟な対応を見せます。彼は京伝の艶本を「教訓読本」という名に置き換え、内容はそのままに「教育的意義がある作品」として再定義したのです。これは、批判の矛先を避けつつ顧客層を拡大するブランド再構築の先駆けでした。

 

現代の課題と対応策
現代の企業もまた、社会的倫理やプラットフォーム規制の中で、表現やメッセージの制約に直面しています。たとえば広告審査基準やSNSのポリシーは、表現の自由とブランドリスクのバランスを常に問い続けています。
その中で成功しているブランドは、単に内容を修正するのではなく、「メッセージの文脈」を巧みに変換しています。刺激的な広告を“教育的ストーリー”として再定義したり、強い主張を“社会的提言”として語るなど、蔦重のように中身を変えず文脈を変えることで共感を得ています。

江戸時代と現代の比較
蔦重の「教訓読本」戦略は、現代のリブランディングやストーリーテリング戦略と本質的に同じ構造を持ちます。時代が違っても、規制を“制約”ではなく“創造の枠”と捉え、そこに遊びと意味を与えることで、文化的価値と経済的価値を同時に高める姿勢は変わりません。

2. アライアンスによるリスク分散と文化防衛

江戸時代の課題と対応策

幕府の圧力が強まる中、蔦重は孤立を避けるために、同業者を巻き込んだ「地本問屋仲間」を組織しました。これは単なる業界団体ではなく、調達から販売までの情報共有を目的とした“リスクシェアの仕組み”でした。個人の責任を分散し、出版文化全体を守るための戦略的同盟でもあります。

現代の課題と対応策
現代の広告・出版業界でも、単独でリスクを抱えることは致命的です。Cookie規制、生成AIの倫理問題、デジタル広告の透明性といった業界課題に対して、企業単体では対応しきれません。業界横断的なルール策定や共同研究、データクリーンルームなどの「共創プラットフォーム」は、まさに地本問屋仲間の現代版といえるでしょう。

 

江戸時代と現代の比較
江戸の連携は地縁的・人情的な信頼を基盤にしていましたが、現代の連携はテクノロジーによる透明性とデータ連携が中心です。いずれの時代も、“競合を敵ではなく、文化の共創者とみなす視点”が業界の持続性を支えています。

3. 炎上を超えたレピュテーション形成

江戸時代の課題と対応策

摘発という最悪の事態にもかかわらず、蔦重は自らの立場を正当化せず、むしろ「文化を守る出版人」としての信念を貫きました。
この姿勢が人々の共感を呼び、蔦屋の名は“抵抗と知の象徴”として記憶されていきます。結果として、短期的な損失は大きくとも、長期的には「文化の守り手」というブランド価値が形成されました。

現代の課題と対応策
現代の企業もSNS炎上や誤解を避けることはできません。しかし重要なのは、炎上を恐れることではなく、その後の行動です。真摯な説明、再発防止、透明なコミュニケーションがブランドを再生させます。危機対応を通して価値観を明確にし、信頼を深めることが、蔦重の時代と同じ“レピュテーション経営”の本質です。

 

江戸時代と現代の比較
江戸では噂が口コミで広がるまで時間がかかりましたが、現代は数時間で世界に拡散します。スピードと透明性が求められる現代においても、「誠実に価値観を語り直す」という蔦重の姿勢は変わらぬ普遍の教訓です。

 

2.第40話「尽きせぬは欲の泉」:人材育成と市場革新の再起戦略

 

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あらすじ

身上半減の刑を受けながらも、蔦屋重三郎は出版業の再興を決意します。筆を折った京伝に再起を促す一方、若き滝沢瑣吉(後の曲亭馬琴)や勝川春朗(後の葛飾北斎)を登用し、店に新しい風を吹き込みました。
そして、歌麿が描いた“きよ”の肖像から着想を得て、蔦重は女性の顔を大胆にクローズアップする「大首絵」を構想します。この斬新な発想が、江戸美人画の新時代を切り開く契機となりました。

現代に通じるポイント
 
1. 多様な才能の共創による事業再生

江戸時代の課題と対応策

蔦屋の出版業は、弾圧と人材流出によって崩壊の危機に瀕していました。しかし蔦重は、残された人材を最大限に活かす方向へ舵を切ります。京伝の代わりに若き馬琴と北斎を登用し、世代を超えた創作環境を整えることで、創造力の火を絶やしませんでした。

現代の課題と対応策
現代企業もクリエイティブ人材の流動化に直面しています。人材確保やエンゲージメントの維持は大きな課題ですが、蔦重のように「異能を束ねる編集力」を持つ組織こそが強い企業へと進化します。
フリーランスや外部パートナーとの共創、クロスファンクショナルチームの編成など、柔軟な人材ポートフォリオの構築は、江戸時代の蔦屋の「人材編集術」と地続きです。

江戸時代と現代の比較
蔦屋が徒弟制度で人材を育てたように、現代企業も育成と信頼を軸にしたコミュニティ的マネジメントが求められます。違いは手段であり、目的は同じ──「人を信じ、人の力で文化を前に進める」ことです。

 

2. 大首絵に見るプロダクト・イノベーション
江戸時代の課題と対応策

規制により言葉の表現が制限される中、蔦重は視覚的な表現に活路を見出しました。歌麿の大首絵は、女性の表情を大胆にクローズアップすることで、従来の美人画の構図を破壊し、見る者の感情を直接揺さぶる新体験を創出します。これは、まさに「UX(ユーザー体験)」の刷新でした。

現代の課題と対応策
現代企業も、飽和した市場で差別化を図るためには、単なる機能改善ではなく「見せ方の再設計」が求められます。たとえば、スマートフォン広告や縦型動画など、視点を変えるだけでユーザー体験が一新されるケースが多く見られます。蔦重の大首絵は、まさにその原点です。

江戸時代と現代の比較
江戸では職人の感覚で構図を変えましたが、現代ではデータ分析やA/Bテストを通じて最適なデザインを見極めます。方法は違っても、根底にあるのは「感情に届く体験をどう設計するか」という問いです。

3. 文化的価値と経済的価値の融合
江戸時代の課題と対応策

幕府の弾圧で出版収入が減る中、歌麿への豪商からの直接依頼は新しいビジネスモデルの萌芽でした。蔦屋は中間流通に頼らず、顧客との直接関係を築くことで、表現の自由と収益の安定を両立しようとしました。

現代の課題と対応策
現代のクリエイターエコノミーにおいても、プラットフォームに依存しない「ダイレクト・エンゲージメント」の重要性が高まっています。企業やクリエイターがファンと直接つながり、支援やサブスクリプションで関係を深めるモデルは、まさに蔦重の思想の延長線上にあります。

江戸時代と現代の比較
江戸では顧客が豪商や町人に限られていましたが、現代ではデジタルによって誰もが“パトロン”になれます。蔦屋が文化の価値を市場につなげたように、現代企業も文化と経済を両立させる仕組みづくりが鍵となります。

 

 

3.第39・40話から読み解く現代企業の戦略的示唆

  マクアケ
 

1. 外的制約を創造の契機に変える──リブランディングの本質

蔦屋重三郎が出版統制下で「教訓読本」という新しいパッケージを生み出したように、現代企業もまた、社会的制約やプラットフォーム規制の中でブランドの再定義を迫られています。たとえば、広告業界では個人情報保護法やCookie規制により、これまでのターゲティング手法が通用しなくなりました。
しかし、多くの先進企業はその制約を“創造のチャンス”と捉えています。データ活用の枠を広げるのではなく、顧客との信頼関係を深める方向にブランド価値を再構築する――この発想こそ、蔦重の柔軟な転換に通じるものです。

つまり、蔦重の「規制をかわす工夫」は、現代における「規制を活かす戦略」へと形を変えています。外的圧力を敵視するのではなく、それを踏まえて新しい意味や文脈を設計する――これがリブランディングの本質です。

2. 仲間とともに危機を乗り越える──業界共創とレジリエンス経営

地本問屋仲間の設立は、単に蔦屋が同業者を守ろうとした行動ではなく、「業界全体のレジリエンスを高めるための戦略的同盟」でした。蔦重は、自社単独で抗うのではなく、共通課題を共有し、連携によって存続の道を探るという“集合的思考”を選びます。

これは現代のマーケティング業界における「共創エコシステム」の概念に直結します。たとえば、広告代理店・データプラットフォーム・クリエイター・流通企業が連携して、透明性の高いデジタル広告環境を構築する動きがその典型です。
個社の利益よりも、業界の持続可能性を優先する取り組みは、蔦重の時代の「文化を守るための協調」と同質の思想に基づいています。

このような連携は、危機の瞬間にこそ真価を発揮します。変化が早い現代において、単独での対応力には限界があります。蔦重が信頼を軸に組織した仲間たちのように、企業同士がデータや知見を共有し、共通の価値観で協働することが、ブランドの持続的競争力を支えるのです。

3. 人材と文化を中核にした市場創造──“感性資本”の再評価

第40話では、蔦重が馬琴や北斎といった新しい才能を登用し、歌麿の大首絵という新しい市場を切り開く姿が描かれます。ここに見えるのは、単なる人材育成ではなく、「文化を資本として再構築する」発想です。
江戸の出版業は、まさに人材が商品であり、文化そのものが経済を動かす原動力でした。蔦重はこの「感性資本」を再定義し、危機の中でも創造を絶やさないシステムを築いたのです。

現代のクリエイターエコノミーやブランドマーケティングにおいても、企業の競争優位を決めるのは“人”の感性です。データやAIが高度化する中でこそ、創造力・共感力・文化的理解といった「非定量的価値」が再び注目されています。
蔦重が才能の多様性を束ね、創造の連鎖を仕掛けたように、現代企業も異なる専門性を持つ人材を組み合わせ、文化的背景を読み解く力を育てる必要があります。

こうした「人材×文化×市場」の三位一体の構造が、蔦屋の時代に出版文化を、現代ではブランド文化を育てているのです。

 
 

おわりに:江戸時代の知恵から学ぶ現代ビジネス戦略

第39話・第40話に描かれた蔦屋重三郎の軌跡は、単なる江戸の出版業者の物語ではありません。それは、変化を恐れず、文化と経済をつなぐ経営者の原型を描いたストーリーです。彼が行ったのは、制度や規制に抗う反骨ではなく、時代の制約を読み解き、それを創造の源泉に変える知恵でした。

現代の企業経営においても、社会構造や市場環境の変化は避けられません。規制、技術革新、消費者意識の多様化など、かつてないスピードで環境が動いています。蔦重が示したのは、そうした変化を“脅威”ではなく“成長の土壌”として活かす姿勢でした。彼の「教訓読本」戦略や「地本問屋仲間」の設立、「大首絵」の発想はいずれも、既存構造を壊すのではなく再設計するためのアクションでした。そこには、「制約を創造に変えるマーケティング」という、現代にも通じる発想が息づいています。

また、蔦重が何より重視していたのは「人」でした。彼は馬琴や北斎、歌麿といった異なる個性を結びつけ、才能が交差する場を作ることで、新たな文化的価値を生み出しました。これはまさに現代で言う「クリエイターエコノミー」や「共創型組織」に通じます。企業がイノベーションを起こすためには、異なる専門性をもつ人々の共感と信頼を結ぶ「場のデザイン」が欠かせません。蔦重はそれを江戸の出版業という枠の中で実践し、文化と商業の共存モデルを確立したのです。

さらに注目すべきは、蔦重の「文化を経営する視点」です。彼にとって出版とは単なる商品ビジネスではなく、人々の心を動かし、社会の価値観を変えていく文化運動でした。現代の企業がESG経営やブランドパーパスを掲げるように、蔦重もまた、自らの事業を通して社会と共に生きる道を選んでいました。短期的な利益ではなく、長期的な信頼と文化的意義を優先した経営姿勢は、今の時代こそ見直すべきリーダーシップの形といえるでしょう。

蔦屋重三郎の物語が教えてくれるのは、「不確実な時代を生き抜くためには、文化と人の力を信じること」です。どれほど技術が進化しても、企業を動かし、社会を変えるのは人の想いと創造の力です。
危機の時代にこそ、蔦重のように柔軟に変化を読み取り、信念をもって文化を紡ぐことが、次の時代のビジネスを照らす羅針盤となるのです。

 

TOKYOTOKYOバナー増田コレクション

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Tokyo Tokyo(東京おみやげプロジェクト)について 
https://tokyotokyo.jp/ja/action/omiyage/

江戸時代から明治時代に使われていた「引札(宣伝用チラシ)」には、当時の日本の文化や暮らしが色濃く反映されています。私たちは、この歴史的に貴重な引札のデザインを現代に活かすため、東京都が進める「東京おみやげプロジェクト」に参画し、伝統的な日本の魅力が詰まった商品の開発と販売を行っています。

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