2025年放送の大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』は、江戸の出版界を変革した蔦屋重三郎の挑戦を描きながら、現代のビジネスにも通じる普遍的な視座を提示してきました。
第17話と18話では物語が新章へと突入し、「出版は誰のためにあるのか」「文化はどう人を育てるのか」といった根源的な問いに踏み込んでいます。
この記事では、耕書堂が教育・地方・創作支援へと広がっていく様子と、歌麿の誕生に象徴される“人の再生”というテーマに注目し、ストーリーに即して現代との接点を読み解いていきます。
ep.1 大河ドラマで注目が集まる蔦屋重三郎とは?引札で江戸時代の広告革命を牽引
ep.2 大河ドラマ『べらぼう』に見る蔦屋重三郎のマーケティング戦略と現代的教訓
ep.3 大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎から学ぶ江戸から令和の広告戦略とマーケティングの本質
ep.4 大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎から学ぶコンテンツとデータ活用のマーケティング術
ep.5 大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎から学ぶ5つのマーケティング手法
ep.6 大河ドラマ『べらぼう』に見る蔦屋重三郎のプロモーション戦略と江戸の集客方法
ep.7 大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎に学ぶ、競争と共創が生んだ江戸のブランド再構築戦略
ep.8 大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎に学ぶ、信頼と理念で組織を再構築する経営戦略
芝居『太平記白石』に登場した貸本屋「本重」の影響で、耕書堂と蔦屋重三郎の名が江戸中で話題になります。「細見を急ぎます!」というセリフが流行語となり、多くの若い女性が訪れる人気の場となる中、蔦重は旧友・新之助と再会し、農村の子どもたちに使われている「往来物」に注目。吉原の子どもたちにも読み書きを教えるべく、手習い本の出版を決意します。
蔦重はこの“往来物”に出版の可能性を見出し、丸屋小兵衛によって独占されていた市場を避け、地方流通に舵を切ります。旧知の彫師・四五六の協力を得て、越後や信濃の農村をターゲットに耕作往来・商売往来を制作。江戸という中央ではなく、“周縁”から出版で社会に貢献しようと動き出します。
リテラシー格差や教育機会の地域間格差は、現代にも続く課題です。教育NPOや自治体、出版社が協業し、教材の無償配布やオンライン講座を提供する動きが加速しており、蔦重の“出版を通じた教育支援”は、今に通じるソーシャル・パブリッシングの原点といえます。
SDGs時代において、教育・リテラシー・情報格差へのアプローチは出版業界でも重要視されています。たとえば、地方の子どもに本を届けるNPOや、教育メディアとの協業で教材を開発する出版社など、出版が社会課題に応える事業として再評価されています。
2.地方創生と出版の新たな接続
蔦重は地本問屋の圧力を受けながらも、地方市場へのアプローチを通じて新しい出版チャネルを切り拓きました。利権構造に依存せず、地方と直接結びつくことで、出版流通の新たな形を提示しました。
現代では、大手プラットフォーマーへの依存から脱却し、D2Cやサブスクリプションなど、自社と顧客が直接つながる出版・コンテンツ戦略が求められています。蔦重の地域主導の出版モデルは、まさにこの動きの先駆けです。
3. 信頼を軸にした人的ネットワークの再構築
地本問屋による圧力のなか、蔦重は旧知の彫師・四五六に支援を求めます。四五六は表立っては動けないながらも、その信頼関係を重視して蔦重の依頼を引き受けます。
信頼による再協業は、現代のBtoBやクリエイティブ業界でも極めて重要です。価格や条件だけでなく、「誰とやるか」「過去にどう関わってきたか」が関係構築の基盤になっています。蔦重の人的ネットワーク運用はその好例です。
第17話は、出版が“商業活動”から“社会的活動”へと広がっていく転換点を描いていました。蔦重は、往来物というジャンルを通して教育と地域にアプローチし、“誰かのための本づくり”という新たな段階に踏み出します。
現代でも、教育出版や地域連携出版は成長分野として注目されています。蔦重のように「中心から周縁へ」「売るから育てるへ」という視点の転換が、現代に通じる文化戦略の示唆になっているのです。
蔦屋重三郎は、行方を追っていた若者・唐丸とついに再会する。しかし唐丸は記憶を失い、「捨吉」と名乗って男娼として荒れた生活を送っていた。過酷な環境に身を置き、自らの存在意義すら見失っていた彼に対し、蔦重は粘り強く語りかけ、希望の糸口をともに探そうとする。
何度も拒まれながらも、「生きる理由がなくても、生きていい“言い訳”を与えたい」という蔦重の誠意とまなざしが、やがて唐丸の心を溶かしていく。蔦重は唐丸に「歌麿」という新たな名を授け、彼の新たな人生が動き出す。
一方で、朋誠堂喜三二は筆が立たなくなり、青本の執筆が滞るという“筆の不調”に見舞われる。蔦重や仲間たちは彼を励ましながら、創作の火を再び灯そうと支える。人と人が支え合い、関係性によって創作が育まれていく姿が丁寧に描かれた回となった。
蔦重は、社会から零れ落ちた存在である唐丸に向き合い、彼の才能を見出し、新たな道へと導いた。そのプロセスは「再生」だけでなく、「社会との再接続」を意図したものであり、出版の文脈から“人を活かす仕組み”として機能している。
現代においても、社会的背景や環境によって埋もれてしまう才能をどう拾い、活かすかが問われている。人材発掘や多様性の尊重、リスキリング支援、包摂的なキャリア支援といった取り組みは、組織文化と社会的評価を高めるうえで重要であり、蔦重の姿勢と通底している。
2.コンテンツ創作における支援と環境整備の重要性
喜三二が筆を折りかけた場面では、仲間の支えや対話が創作の再起に向けた力となった。耕書堂は作品を“出す場”であると同時に、創作者にとっての“居場所”でもあり、その両輪で文化を育んでいた。
現代の課題と対応策
創作者のメンタルケアや執筆支援、コミュニティの形成は、現代のクリエイティブ環境においても不可欠である。クリエイター支援制度やレジデンスプログラム、また企業によるインキュベーション環境の提供は、創作力を継続させるための基盤づくりに直結する。
第18話では、「人が人を支え、可能性を見出し、再び社会とつながっていく」という文化的包摂の姿勢が描かれた。蔦重は単なる“出版人”ではなく、人の内面に寄り添い、社会に再び活かす“育成者”としての顔を見せた。
現代でも、スキルや成果だけではなく「人をどう受け入れ、どう育てるか」という文化的視座が、企業・組織・社会全体に求められている。蔦重のように、表現と人生、作品と社会をつなぐ視点は、今後の文化的インフラにおいて欠かせない視点となるだろう。
第17話での蔦重は、「往来物」を通じて教育と地域をつなぎ直し、耕書堂を“知と学びのハブ”として再定義し始めました。そして第18話では、唐丸という孤立した若者を「歌麿」として再出発させ、ひとりの命を“物語と文化”に変える行為を通じて、出版とは「人を包み、生かす場」であるというビジョンを体現しています。ここでは両話から読み解ける4つの戦略視点を紹介します。
江戸時代の戦略:
蔦重は吉原五十間道に耕書堂を開き、出版活動だけでなく、子どもたちの教育や、社会から疎外された人々の再起の場としても機能する“居場所”を作りました。耕書堂は、出版を軸にした社会包摂の拠点でもあったのです。
現代の応用:
現代の企業も、ブランドや店舗が「何を売るか」以上に、「誰の居場所になるか」が問われています。教育支援・福祉連携・コミュニティスペースなど、企業や文化施設が果たす“居場所としての機能”は、蔦重の耕書堂と本質的に通じる設計思想です。
江戸時代の戦略:
蔦重は過酷な環境で生きていた唐丸に対し、「生きていていい理由」を与え、名前を「歌麿」として再出発させます。その過程自体が、一人の人生を文化に変える包摂的創造のプロセスでした。
現代の応用:
現代では、ユニバーサルデザインやダイバーシティ経営など、誰もが創造に関与できる仕組みづくりが重視されています。就労支援型アート、インクルーシブなメディア編集、社会的マイノリティの物語を事業化する試みなどが、それに該当します。
江戸時代の戦略:
17話の往来物制作や、18話での唐丸との対話に見られるように、蔦重の出版は「ニーズ」より「誰かのため」が出発点でした。そこには、マーケティングではなく“共感”を基軸とした価値創出の姿勢がありました。
現代の応用:
現代でも、ファンコミュニティの共感を軸にしたD2C(Direct to Consumer)や、クラウドファンディングによるコンテンツ創出、NPOとの協働型事業など、“想い”を出発点にした価値づくりが広がっています。
江戸時代の戦略:
18話では、唐丸の再生がそのまま「歌麿の誕生」となり、新たな文化章の始まりを示します。出版・表現・教育の新章は、誰かの命や物語の再出発と強く結びついていたのです。
現代の応用:
現代におけるブランドリニューアルやプロジェクト立ち上げでも、「再出発」や「物語性」が重要視されています。たとえば、個人の経験や苦難を起点に社会的プロダクトを立ち上げる起業家たちの姿勢は、蔦重の“文化の原点は人の再生にある”という思想と重なります。
再出発と包摂から始まる「文化の次章」
NHK大河ドラマ『べらぼう』第17話・第18話では、蔦屋重三郎が耕書堂を“学びと再生の場”として広げていく様子が描かれました。教育のために出版を活かす「往来物」戦略、孤立した若者・唐丸に「歌麿」という名を与えた再生の物語――そのどれもが、蔦重の「人のために本をつくる」という信念から生まれています。
これらの取り組みは、現代においても、教育と出版の融合、包摂型コンテンツ戦略、ブランドや事業の“再出発”といったテーマと深く響き合います。ただモノを売るのではなく、誰かの人生に寄り添い、文化のハブとして機能する。蔦屋重三郎の出版観は、まさに“文化のインフラ”を設計する思想だったと言えるでしょう。
江戸から令和へ、文化は常に「人の再生」から動き出します。蔦重が切り拓いた「物語の力による社会との接続」は、今日のビジネスや創造にとってもなお重要なヒントをを与えてくれます。
新章が開幕し、出版元となった蔦屋重三郎がどのように「文化の未来」を紡いでいくのか。引き続き、江戸の知恵と現代の実践をつなぎながら、『べらぼう』を通して未来に活きるヒントを探ってまいります。
ぜひ、次回以降もご期待ください。
また、江戸時代の広告文化に興味を持った方は、ぜひ、引札についても興味を深めて頂ければと思います。
Tokyo Tokyo(東京おみやげプロジェクト)について
https://tokyotokyo.jp/ja/action/omiyage/
江戸時代から明治時代に使われていた「引札(宣伝用チラシ)」には、当時の日本の文化や暮らしが色濃く反映されています。私たちは、この歴史的に貴重な引札のデザインを現代に活かすため、東京都が進める「東京おみやげプロジェクト」に参画し、伝統的な日本の魅力が詰まった商品の開発と販売を行っています。
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